先日、某・韓流の俳優さん4人組が出演し、
ミュージカルの有名曲をたくさん演奏する
いわゆる「ガラコンサート」のバックバンドの
仕事に呼ばれました。
オーケストラチームはみんな日本人だけど
リズム隊は韓国チーム、の中になぜか
ベースだけ日本人の僕が投入されるという
貴重な国際交流現場でした。
そして音楽監督&指揮は、
30代という若さで多数のミュージカル、
フランケンシュタインや
ベンハーというミュージカルを
作曲されて大活躍の
イ・ソンジュン監督というお方でした。
しかし流石はプロの現場、みんな素晴らしい対応力。
今回初対面の韓国人ギター&ドラマーとは
英語でコミュニケーションを取りつつ、
音楽監督の指示を通訳さんを通して
確認しながらリハーサルは進行。
このリハーサルで僕は、ベースを1本だけ持って行ったのですが
サウンドがどの曲にもマッチしたので、
その楽器一本で本番も遂行する事に決めました。
大きなステージには「楽器チーム」といって、アンプや機材類をまとめて管理してくれるチームがいるのですが、彼らに自分の機材を全て預けて解散。
昼と夜の2公演の予定。
朝のサウンドチェックとリハーサルを終え、
皆さま流石のコンディション。
昨日のリハーサルの甲斐もあって
お昼の公演は難なく無事終了。
ここまでは順調だったのですが………
昼の公演とは別の曲目もあるので、
夕方に再度リハーサルをするとの事で
ステージに召集されるバンドとオーケストラメンバー。
席についてベースを弾こうとするも、
さっきと全く同じセッティングのはずなのに…
なんと、
幸い、これはまだリハーサルなのでまだ本番まで時間はある・・・しかし、楽器はこれ1本。
それどころか、イヤーモニター(本番中に耳に装着して全ての音をバランス良く聴くための、イヤホン型の装着)に返ってくるハズの
ベースの音は、不可解なノイズだらけ。
エフェクターやケーブルのセッティングを
すぐさまチェックするも、異常は見当たらない…
楽器は電池を使用しないパッシブタイプ…
構わずリハーサルは進行する…
一気に冷や汗。オワタ…
(エレクトリック楽器は、どこか回路トラブルが起こると一切音が出せないという弱点があります)
「一回、ベース本体の内部をチェックしてみましょうか」
といって、僕のベースを舞台裏のドックに搬送。
この時点で本番40分前。
(最悪…近くのリハーサルスタジオに走って
楽器を借りに行く覚悟だ…)
そこまで考えた僕。
楽器チームの2人
「これだ、中の配線が外れかかってる。
これ、昼の公演が何事も無く終わったの
奇跡に近いッス」
……なんと。。
まさか今まで全く問題が無かっただけに、とてもネジまで外してチェックしないような箇所でした。
楽器チームの2人
「ハンダ付け直しちゃいましょう。コテ貸して」
「あいよ、ここ押さえてて」
と言って、なんとその場でベースの電気回路の
手術が始まりました。
電気回路に疎い僕は
こうなったらお手上げで、2人を信じるしか
ありませんでした。
刻一刻と過ぎる時間。
本番30分前、定刻通り夜の部のお客さんが
続々と入場。
しかしまだ続くベースの開腹手術。
再度2人がアンプにベースを接続するも、
まだ消えないノイズ。
(いよいよサブを借りに走るか…)と
僕の不安をよそに、
楽器チーム
「グランドが落ちるはずのシールドの接触が不安定だ。よし、最終手段いくっス、任せて」
と。
再び楽器は舞台裏に…
そしてなんと僕のシールドケーブルの片方の
ジャック(接続パーツ)をぶった切り、
剥き出しになった電線を
僕のベースの回路に直接ハンダ付けし始めたではないか!!!!
タイムスケジュール通り、本番5分前に
舞台袖に集まってくるオーケストラの面々。
そして楽器チーム再びベースを
僕のセッティングに接続…
通電…
この時点でステージ袖のサウンドマンと
再度スピーカーチェック。
5分だけ押してしまったものの、
盛大なお客さんの拍手。
ffで奏でる初めの1音、ドーーン!と無事に鳴らせた喜び!
1音1音、噛みしめるように弾く。
俳優さんたちの素晴らしい歌声、
オーケストラの音圧もイヤーモニターにしっかりと返ってきて、
隣には言葉は通じないけど同じ目的でステージに乗っている異国のプレイヤー。
涙腺が緩みそうになりました。
音が出せるって、あぁこんなにも素晴らしい。
舞台袖をみると、直前までハンダ付けを
してくれていた兄さんたちが、
こちらを見て親指を立ててくれる。
こちらも親指を立てて返す。
指揮者のイ・ソンジュン監督も、
安堵の表情。
そして、本番中一切のトラブルもなく、
夜の部が終了、
お客さんも大喝采、
俳優の皆さんも団員も最高の表情で
コンサートを終え、ホッと一息。
楽器チームの2人のプロフェッショナリズム、
的確な判断がなければ終わってました。
舞台袖の救世主に心から感謝と敬意を。
株式会社サンフォニックスのお二人に
この場を借りて、御礼申し上げます。
ステージは、決して自分1人の力では成り立たないのだ
という事を、
身に染みて考えさせられる貴重な1日でした。
(複数ある楽器の状態を、
どれも常にベストコンディションに保っておく大事さも
改めて痛感しました。)
プロの仕事は、素晴らしい。
(長文をお読み頂き、ありがとうございました。)
(2017/10/10筆)